認知症の人とともに(認知症の自我心理学入門)


目次

はじめに

認知症の人の人生が夜の闇のように真っ暗である必要はない。認知症になったからといって人生が終わってしまうのではないことを常に思い起こすことは重要である。障害を忘れ、以前のように感じることができる明るい瞬間はたくさんあるものである。その瞬間を思い切り楽しむ事が大切なのである。(P32)

このガイドラインは、認知症の人とともに―認知症の自我心理学入門ー ジェーンキャッシュ (著),訓覇 法子 (訳) クリエイツかもがわをまとめたものです。スタッフの皆様の参考になれば幸いです。

この本の目的は、認知症の人たちをより正しく理解するとともに、認知症の人たちが身近な環境をどのように受けとめているかについて知識を深め、「自我を支える対応法」の実際を学ぶことである。この本はフロイト心理学を基礎にした「精神分析的自我心理学」の理論を基礎にしている。自我とは、意識や行動の主体を指す概念である。ちなみにバリデーションはエリクソンの発達心理学理論を基礎にしている。全ての認知症ケアワーカーや家族は、無意識に蓄積されてきた体験的な「知識」を「自我を支える対応法」を学ぶことを通じて体系的に整理し、認識の世界に移行させることができる。

自我を支える対応法とは日常的な言葉で言えば「手伝う」「後押しする」「楽に仕事をする」に近いが、認知症介護をより独立した専門性の高い分野に推し進めていくために必要な「正確な記述」のための一つツール(用語、方法論、学説、アドバイス)である(P57)。

この本では、全ての人は「思考能力」「対象と関係をもつ能力」「判断力」「防衛機制」「総合統合能力」などをはじめとする12の自我機能の断片から形成され(人間―不思議なパズル)、全ての断片がお互いに影響しあい、協働し総合的な人間を形成しているととらえ、一人の人間と人格の総合的な図を描くには、パズルの断片―全ての自我機能―に注目しなければならないとしている。

認知症の人はこれらの全てが壊れているのではなく、それらが部分的に弱くなっていることで苦しんでいるのであり、支援する家族やケアワーカーの役割は認知症の人たちの「健康な」部分を日常の中で見出して自立を支援し、認知症の人の「補助自我」として彼らの損なわれた部分を補うことであると主張している。大事なことは、以下の二つである(P7)

  1. 認知症の人が人としての尊厳を持ち続けられること。
    認知症の人を援助するにあたっては、本人の自尊感情や人間としての価値が保持されるかたちで、本人の自我機能がうまく発揮されるように“手伝い”“あと押しする”という自我を支える対応法が必要である。
  2. 認知症の人との共生が個人の持つ恒久的な価値観に対する尊敬に基づいて営まれること。
    認知症ケアは他の障害者ケアや高齢者ケアあるいは終末期ケアと同様に「たとえどんな障害や困難をかかえていようとも、人は固有の存在として生ある限り、尊ばれ大切にされるべきである」という市民社会における共生の理念の一環として意味を持っている。

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変化と喪失

認知症になると人は様々な分野で変化をきたす。一部のパズルの断片は形が変わり、他の部分は形そのものが失われてしまっている。

認知症の疑いがあるときは、どんな場合にも正確な診断名と、他の病気でないことを明確にするために、検査、診断が必要である。正確な診断は認知症クライアントの行動変化が、どういう理由によるものかを明らかにしてくれるとともに、適切な支援を受けることを可能にする。

認知症の人は変化をどう受け止めるのだろうか?

認知症であることを実際に知っているのは認知症の人自身であるが、認知症の人は自分がどう感じているかを記述することが往々にして難しいものである。そのために多くの人が、自分に対しても、周りの人に対しても困難さを隠してしまっている。

事例

ヨートハンマルの場合

頭の中が病気のような気がしている。間違ってしまったことはわかるが、それを訂正することができない。一番難しいことは、いろいろな状況において起こる記憶の「穴」である。

ほかにも難しいことは沢山ある。話しているとき言葉を探し出すことが難しくなる。話している最中、言葉が消失してしまう。言葉が見つからないので書くことも難しくなる。

読んでいる本の内容が理解できなくなる。数えることも難しくなり、買い物のお釣り計算は店員任せになる。ここ数年、自分が変わってしまったので、あまり人と交流せず、孤独な思いをしている。

「私が壊れる瞬間」ダイアナフリールマックゴゥイン

45歳ごろから記憶が喪失することを感じ始める。早い段階から精神科医に相談し、「できるかぎり幸せに、アクティブに生活しなさい。人生を楽しむこと。あなたの素敵なユーモアを失わないこと。そのことが、あなたの積極的な態度を維持し、周りでおきることを肯定的に受け止めるうえで役立つ。家族を集めて、あなたに何が起こったのかを話しなさい」というアドバイスを受けているが、孫の訪問に緊張するようになったり、性欲がコントロールできなくなったりと生活のあらゆる場面で変化が著明になる。

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家族はどのような思いで受け止めるのだろうか?

認知症は本人だけでなく家族にも大きな影響を及ぼす。新しい出来事や要求の出現によって発生する時間的、物理的、心理的拘束が極めて負担に感じられるようになり、家族内に摩擦や争いや分断が生じやすくなる。家族はしばしば社会的交流の余裕を失い孤立する。

家族は複雑で深刻な感情体験をする。

当惑と不安、過敏反応、いらだちと怒り、否定、悲しみや喪失感・失望感

認知症のせいであると頭では分かっていても、

  • 認知症の人のささいな間違いに怒鳴り、わめいてしまう。
  • 認知症の人が今までできていたことに固執し、思いやりを持てなくなる
  • 繰り返し同じ質問をされることに腹が立ち怒ってしまう

罪悪感と良心の呵責

感情的になる度に後で申し訳ないと思う

  • 絶え間ない不安と将来への憂い、恐怖、寂寥感、落ち込み、恥辱感
  • 自分が生き地獄状態にあるように感じる

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家族の基本的な対処法

認知症の人と一緒に過ごす方法を学ぶことによって、困難な状況に対して、うまく処理できるようになり、家族として感じる負担を軽減することができる。

情報を集める。

新しく生じた難しい状況を乗り切るために有意義な方法である。情報や知識を得て、どういうことが起こりうるかと予測することができるようになれば、家族やケアワーカーは部分的ではあれ、前準備を行うことができ、自分の置かれた状況に対して、安心感をもってコントロールできるようになる。

援助を求める

親戚や友人に話し、地域の「認知症の人と家族の会」などに連絡をとってみる。

  • 兵庫県支部は 代表者 酒井 邦夫
  • 連絡先 〒651-1102神戸市北区山田町下谷上字中一里山14-1
  • しあわせの村内(月・木10:00~17:00)電話 / FAX 078-741-7707
  • 電話相談(兵庫県高齢者総合福祉センター)も活用する。
  • 毎週火・金曜日午前10時~午後4時
  • 電話:0120-017830

うまくいかない時もあることを認め、適切な対処(事後の対処と事前の予防)を行う

介護者にとって負担が大きくなり過ぎた兆候として、怒りのあまり手が出たり、介護を放棄してしまったりすることは誰にでもあり得る。「虐待」は認知症介護現場においてごく一般的な対処可能な出来事であり、決して介護者固有の人格に由来するものではない。

もしそうなったら、あるいはそうなりそうになったら、誰かにそのことを話して、負担が少しでも軽くなるように介護サービスの利用量を増やしたり、介護職であれば上司や仲間と話し合うことが必要である。

「爆発」が起こらないようにするためには

休養によって一時期であっても心の安息を得ることが必要であるショートステイ、デイサービス、自費も利用した長時間ホームヘルプサービスの利用など。

我慢できそうにない時は、とりあえずの応急処置として、10まで数える、誰かに電話するとか、コーヒーを沸かすなど気分転換を行い、状況を中断する。

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認知症の方を一人ひとり個別的に固有の存在としてみること

私たちは高齢者を、全ての人が皆同じだという「同質者」のように見てしまい、全てをひとまとめにして、漠然と普遍化してしまいがちである。「これは認知症にみられる典型的なことだ」と考えて、認知症のひとの行動を無視しがちになる。それは、そうすることで、この人がどうしてそのような行動や態度にでるかを理解する努力をしなくて済むからである。

2人の認知症の方いれば、必ず異なっている部分が多いことが分る。2人はそれぞれ異なった人生経験、性格、人生観をもっている。また、2人は異なった価値観、期待、願望、要求をもっている。自分の記憶障害にも異なった方法で対応する。

尊厳ある接し方とは

  • 私たちがのどように他人に接するかは、さまざまな要因による。それは、人間観、価値観、知識、経験、期待などに大きく関係している。
  • 認知症を患う人に対して、人間的に、個人的に接するということは、感情を込めて、その人固有の人生史、人格やニーズをもった一人の人間としてみようとすることである。
  • 私たちは一人のユニークな人物に出会うのであり認知症老人と出会うのではない。時間と空間を分かち合うために大切ことは、いつも相手に関心を持ち、必要とされれば手の届くところに存在する仲間になりうる能力である。
  • 一人の人間の多様な能力に何がどのように影響を及ぼすかということをより多く学ぶことが必要である。知識が増えれば、さまざまな行動への理解も深まる。専門能力が高まれば、家族や介護職員としても安心感を得ることができ、ひいてはあなたの安心感が認知症の人の安心感につながり、信頼感を増す。

1.自尊感情がおびやかされる。(実際の能力と主観的能力の低下)

  • 「実際の能力と体験的能力」のなかで中心的な位置を占めるものが「自尊感情」と「自己価値」である。自分には能力があると思う感情は、自尊感情、自己認識、自信などという形で現れる。
  • よい自尊感情があれば、自分の判断を信じることが出来、難しいことに取り組んだり新しいことに挑戦したりすることに対して不安を感じない。逆に自尊感情が低いと、何も出来ないと思ってしまう。よい自尊感情を維持するためには自分の人生をコントロールし、さまざまな状況を克服できると感じることが大切である。
  • 人は他人の尊敬と評価を失うと、自尊感情も失う。高齢者が知的な面で衰えていくと、肯定的な自尊感情を保つことが難しくなる。認知症が進むと、何回も失敗したり間違った行動をおこしたりして、周りの人の嫌悪や怒りを呼ぶために、自分が劣っていると感じることが多くなる。従って
自尊感情がおびやかされているときの、自我を支える対応
  • 認知症の人にも他の人のために役立ち、何事かを遂行できる能力があることを、介護者自らが信じ、残っている能力を発見して、現実の場で発揮できるように支援し、認知症の方が自分の状況をコントロールできている、部分的にせよ自立でき役に立っていると感じられるようにする。
  • 周りから理解されているという感情を確認できることが、自尊感情にとって重要である。
  • 全ての機会を利用して、認知症の人もまた人として存在価値があることを示すために、「(あなたは以前のあなたと異なり、変わってしまったけれど、)人として変わらない価値をもっている」と言う言語的あるいは非言語的メッセージを伝え続ける。
  • 要求するときは、認知症の人の能力にあったものであることが必要である(残存能力アセスメントの重要性)。
  • 要求されたことをこなすことができれば、自尊感情は強化される。
  • 褒める場合は心から褒める。感謝する場合も心から感謝する。お世辞は自尊感情を高めない。
  • 認知症の人が自尊感情を維持するために必要とするならば、言い訳をすることを容認する。

例:裸をさらすということが自尊感情を著しく損なうと感じているクライアントは入浴を頑なに拒否するかもしれないが、その場合、「不潔です」、「臭います」、「困ります」などといった脅迫的な言動で入浴を強制してはならない。

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2.思考能力が衰える(思考過程の脆弱化)

思考とは、注意力、集中力、記憶、言語、抽象化などの相互作用による極めて複雑なプロセスである。

注意力と集中力の低下

認知症の人は短い時間しか集中できず、散漫になり、注意力が欠ける。

集中力が低下した場合に、自我を支える対応例
  • 介護者自身が自ら集中し、補助自我として機能する。
  • 認知症の人は、段階ごとに案内されることが必要だということをいつも考える。
  • 会話の話題を次から次へと早く変えず、最初の話題で会話を終えるようにする。
  • 家事や日常動作も一段階ずつ見守り、励ましながら行う。

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記憶力の低化
3種類の「記憶」について
  1. エピソード記憶:人生において起こった個人的な意味のある出来事に関する記憶
  2. 意味記憶:人生において学んだ全てのことを包括し、普通、常識と呼ばれる一般の知識にかかわるもの。
  3. 手続き記憶:歩く、自転車に乗る、泳ぐ、ピアノを弾くなどの能力を意味する記憶。

思い出すという能力は人が自分というものを体験するための核心をなすものであり、記憶障害はその人にとって深刻な能力喪失である。認知症になると、まずエピソード記憶が低下し、次に意味記憶が低下するが、手続き記憶は認知症になってもかなり長い間維持される。以前思い出せたことが思い出せなくなってきた時、ほとんどの認知症の方は強い屈辱感を味わう(P68)。 また新しいことの学習能力が極度に低下し、何度も繰り返し尋ねるようになる。

  • 高齢者の良性の記憶障害:出来事の一部や細部を忘れる(昼ごはんのおかずは何か忘れる)
  • 認知症の記憶障害:出来事自体を忘れる(昼ごはんを食べたことを忘れる)
記憶力が低下した時、自我を支える対応例

肯定的な感情はかなり長く残るものであり、瞬間、瞬間を楽しむことが大切である。

  • 一日の時間の一部に決まった日課(例:散歩)を組み込むと、その人が自分の暮らしを実感し、環境に対して安心感を抱く上で大いに役に立つ。
  • 歌や音楽、また懐かしい季節行事や食べ物はその人の記憶を呼び覚ます効果がある
  • 記憶の悪さを思い知らせる質問をして記憶力の低下した人を追い詰めたり辱めてはいけない。
  • 「覚えていますか?」とか「思い出しましたか?」などと言う会話は決してしないようにする。
  • 「いつ」、「誰が」、「何を」と言う質問はできるだけ避ける。
  • 「お昼を食べましたか」と聞く代わりに「お腹は減っていますか」と聞く
  • いつもそばにメモ帳を置いてその人にとって必要なことを書きつけるようにする。
  • 認知症の方がどこにお金を置いたか忘れたために、あなたを疑ったとしても、それは防衛機制の一種であり、最も信頼しているあなたに投影行動を行っているのであり、本心からあなたを疑っているわけではないことを思い出して冷静になる。

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言葉

認知症になると、「言葉の健忘症」が起こり、他人に理解してもらうことと、他人が言うことを理解することの両方が難しくなり、頭の中には言葉があるのにどんなに努力してもそれを取り出せない屈辱感や恐怖感を味わう。

言語障害において、自我を支える対応例
  • 難聴や騒音のためにコミュニケーションが阻害されていないかどうか常に配慮する。
  • 話をする時は、認知症の人が集中できるように、お互いの目と目、視線を合わせながらコンタクトを持つ。はっきりと、簡潔にシンプルにそしてゆっくりと話し、その人が自分の力で表現できるよう見守りを心がける。
  • 認知症の人が何を伝えたいのか関心があることを親密な態度で示し、言葉の背後にあるものを意識して、集中して慎重に聞いて、正しく言い当てる。
  • 認知症の人の言葉や内容の間違いを指摘したり訂正したりせず、言葉の背後にある意味を察する努力をする。
  • はい、いいえで答えられるような簡潔な質問を心掛ける。
  • とりとめのない話をしている時は話の内容の「キーワード」発見してそれを繰り返す。
  • 認知症の方に落ち着きがなくなった時は、その背後にある生理的、心理的事情(トイレに行きたいのではないか、居心地が悪いのではないだろうか)について想像力を働かせて対応する。
抽象的な思考

認知症の人は以前より具体的に考えるようになり、全体を把握し、問題を解決する能力が悪化するので格言のような抽象的なセンテンスを理解することができなくなる。

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3.アイデンティティーの混乱が起こってくる。(実在・現実性把握)

認知症になると、自我の機能が低下することで、自分が脆くなり、自分がいったい誰であるのか、不安に感じるようになる。鏡に映る自画像が他人であるかのように見え自分の顔や体が自分のものであると感じられなくなり、「私は誰なの?私が消滅していく、本当の私は死んだ」といった強い消滅的、破壊的苦悩に襲われる。

アイデンティティーの混乱状態において、自我を支える対応例
  • 認知症の人自身がユニークな存在であると感じられるように、その人の生活史をよく知る。
  • 認知症の人が生きてきた人生に関して知識を得ることは、相手の立場を理解(共感的理解)し、尊敬をもって接するための重要な前提である。
  • 私たちは高齢者、とりわけ認知症高齢者を「性喪失者」としてみる傾向があるが、性はアイデンティティーの重要な一部であり、男性的あるいは女性的な部分に、特に注目することが大事である。

4.外界への認識や外界体験が変化してくる(現実検討能力の低下)

時間・場所・周囲の人物に対する理解が難しくなり、存在しないものが見えるような気がして、「私は気が狂っているのではないだろうか」という不安、苦悩、恐怖の感情に襲われる。

時間の失見当識
  • 認知症の人は、認知症の早期に時間に対する認識を失う。時計を読み取る能力が早い時点で低下するため、何度も時刻を尋ねるようになる。
  • 時間の概念を喪失し、人生の経験における異なる時点の出来事が混ぜこぜになってしまう。

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時間の見当識に対して、自我を支える対応例
  • 今日は何日かという質問によって認知症の人を不安にさせない。
  • 日時が把握できるように日めくりカレンダーや分針秒針のない時計、その日の新聞などを配置する
  • 時間日付今日の予定などの基本的な情報は繰り返して説明する。
  • 「今何時ですか」と繰り返し尋ねられてもイライラしないでそのつど親切丁寧に説明する
  • 決して、「さっきも言ったでしょ」と攻撃してはいけない。
  • きちんと決まった、反復的な日課は一日の生活に構造とリズムを作る。
場所の失見当識

場所を認識する能力の欠如は、普通、外界から身近な環境へ、そして最後に自宅へと進行していく。

場所の見当識に対して、自我を支える対応例
  • 認知症の人にはわかりやすくて、しかも安心できる環境が必要なことを考える。
  • 物はいつも同じ場所に収納する。
知覚・認知の失見当識
  • 認知症になると、五感によって受ける印象を解釈すること、聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚を理解することが難しくなり、外界が不安定で想定しがたいものになる。
  • 濃い色の敷物は穴のように見えることがある。

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知覚能力が機能しないときに自我を支える対応例
  • 飲み物と間違えやすい毒性のある液体は必ず手の届かないところに置く。
  • 五感の印象を正しく解釈できないときは、わかりやすく、現実を説明する。
  • 認知症の人が顔を思い出せないときに、「私のこと、見覚えがないのですか」と質問しないで、       自分で自分を紹介する(認知症の人はあなたの声に聞き覚えがあるかもしれないから)。
  • 色々な試みがうまくいかない時は、平静を保つよう努力し、話題を変えたり、お茶の時間にしたり、散歩に出たりといった、他の事を試みる。
妄想と幻想
  • 孤独感が妄想や混乱の引き金になりやすい。
  • 妄想や幻覚は五感による印象が低下しやすい夜や、一人でいる時に往々としておこる。
  • 現実に対する間違った理解ではあるが、認知症の人にとっては現実である。
妄想と幻想に対して、自我を支える対応例
  • 妄想や幻想に影響を与えることを可能にする方法は、信頼と正直さに基づいた人間関係を築くこと。
  • クライアントが幻想にそれほど悩まされていなければ様子を見ていても良い。
  • 認知症の人の妄想に対して反論しない反論すると信頼関係が崩れる(理解されていないという思い)。
  • クライアントから、「あなたもそう思うでしょう?」と直接質問された時には、幻想や妄想にまつわる感情は認めても(受容)、内容に関しては同意せずに自分の意見を述べる。
例:クライアント「天井に虫が這っている」
介護者「天井に虫が這っているように見えるんですね」
クライアント「ほらあなたにも見えるでしょ?」
介護者「僕にはそうは見えませんが、でももしそう見えたらずいぶん気持ちが悪いでしょうね」

症状が強くて継続する場合は膀胱炎など医学的な問題がないかどうか医師に相談する。

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5.他者との人間関係が変化してくる(他者関係の構築障害)

他者関係とは他の人に対する情緒的な関係を意味し、自我の発達にとって極めて重要で的な位置を占める。

他者関係における2つの重要なポイント
  • 1.敵対心を最低限に抑え、温かさと愛情に満ちた方法で他者への情緒的な関係を形成できる能力
  • 2.長期間にわたって安定した人間関係を維持できる能力
また、他者関係に関連する不安や苦悩としては以下のものがあげられる
  • 3.自己にとって重要な意味を持つ人を失う不安恐怖(離別の苦悩)
  • 4.重要な人の愛を失う不安恐怖

他者に対する一定の「心のイメージ」を持ち続けることで、他者がいない時も私たちは自らの存在を安定したものとして、また予想可能なものとして感じることができる。認知症の方はこの「心のイメージ」を持ち続けられないために、人間関係が変化してくる。

認知症に伴う障害

  • 認知症の方は表面的レベルでは社交能力を発揮できるが、深い次元ではほかの人との関係を形成し、その関係を維持する能力が次第に低下してくる。
  • 侵害感にさらされる出会いを避けるため、人の集まりを避け始める。
  • 臆病になり、距離を置こうとする。
  • 同時に多くの人と交流するよりも、1対1で交流するほうがしばしば容易となる。
  • 認知症の方が、ほかの人への関心を示さないように見えるのは、自分自身の困難さを抱えていることによるものである。
  • 無感情になる。
  • 人間関係において味わう失望感を表現する能力が低下する。
  • 他の人が独立した人間であることを理解することが難しくなる。
  • 自己中心的になり、ほかの人を独占したがる傾向にある。
  • 他者への依存要求が高まる―一人で居られなくなる―
  • 重要な人たちにもたれかかり要求する―共依存―
  • 被害妄想を感じることもある。
  • 重要な人が不在であることを認識判断する能力が低下する。

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人間関係が変化するときに自我を支える対応例。

  • 健常であるケアワーカーの方から人間関係を築いていく。
  • 認知症の方は常に不安を感じておられるため、認知症の方から、離れなくてはならない時は、そのことを分かりやすく、正直に、誠実に伝える。
例「私は○○のためにしばらくここを離れなくてはなりません」
  • 認知症の方が持っている社会的、情緒的残存能力を大切にする。
  • 人との集まりは大事であるが、何もしなくても、一緒にいるだけで十分な場合がある。
  • 認知症の方も自分自身のための時間が必要であることを認識する。(干渉しすぎない)

6.五感から得る印象の整理が難しくなってくる。(刺激の防壁)

刺激の防壁:刺激防壁には2つの機能がある。

  1. 入ってくる五感の印象を保護する。
  2. 印象を受け止める
  • 人は、子供のときに五感を通じ外界を学び、聴く、吸う、見る、触れるなど様々な印象を受け止めようとする。また自分自身の力と、好ましい環境を準備してくれる母親の保護力を得て、五感から得る印象を理解し、管理することを学んで発達していく。親が子供と外界の間の調整機能を果たしているといえる。
  • 認知症の方にとって親の役割を私たちが担う必要がある。また、感覚システムが活性されすぎて、外からの印象が強すぎると、全ての五感体験はトラウマ(心的外傷)的になる。人はそれぞれ多様な適応法を発達させ、したがって、強すぎる五感の印象に対して多様な方法で自分を守ろうとする。
  • 認知症の初期の段階では、五感の印象が敏感になり、不安やストレスを感じる。五感の印象に対する感受性の低下(痛み、暑さ寒さなども)も起こりうる。また微妙に異なる印象を理解する能力もしだいに低下してくる。

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認知症に伴う障害例
  • 高音や強い光に過敏になる。
  • 周囲の音や光におびえを感じると、認知症の方は内にこもってしまう。
  • 痛み、冷たさ、暖かさに対して感じやすくなる、あるいは感じにくくなる。
  • 五感の印象にあるニュアンスを理解する能力が低下する。
感覚印象の選別が悪化したときの自我を支える対応例
  • 静寂を大事にする。(無造作にテレビやラジオをつけない)
  • 静かで安堵した雰囲気の就寝環境を提供する。
  • 音の刺激の選別がしにくい認知症の方とは静かで落ち着いた環境で話す方がよい。
  • 印象を強化するような高音環境やストレスを増加する環境は避ける。
  • 音楽は喜びやリラックの源泉であるがストレスや不安を生じる原因ともなり得ることを認識する。
  • 認知症の方が、眩しい光や高音に対して自分で対処しにくいことを認識し、解決手段をサポートする。
  • 認知症の方が、温度に対して感受性が低下してくることを認識し、室内の温度や、身だしなみにも目を向ける。
  • 認知症の方が、痛みに対しての感受性の低下が起きていることを認識し、身体の変化(体を動かしにくそうにしていないか?青あざや、腫れがないか?転倒していないか?痛みがないか?など)を観察し、常に目を向ける。

7.判断能力が低下してくる(行動選択の判断能力低下)

  • 様々な状況において何が適切か理解し、判断して行動していくことは、人が共同生活していく上で重要であるが、認知症の方は経験を学習体験として蓄積できないため、全ての状況が本人にとっては初めての経験となっていることが多く、何度も同じ過ちを繰り返する。判断能力がうまく機能しないことで日常生活の営みが難しくなってくる。
  • 危険な状況を判断する能力が不十分になる。
  • 認知症の方は、自分自身、また相手に対しても、危険な状況を起こしていることを理解することが困難となっている。(たとえば、交通や、火に関する危険、防寒対策など)
  • 様々な社会状況において他人からの嫌悪感や怒りを呼ぶような不適切な言動に出る。

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認知症の方が、判断能力が低下するときに自我を支える対応例

認知症の方がどんな状況で判断が低くなっているかを考え、またどんな状況ならうまく対処できるかを考え、認知症の方が最善の自己決定できるよう援助していく。

例:冬になったら、夏の衣類は片付け、冬の衣類から自分の好きなものを選択できるようにする
  • 常に一歩だけ先回りして、危険の回避、とんでもない状況を引き起こす前に援助する。
  • 安全性の危険を軽減するための環境整備を行うが、非人間的環境にならないように、危険を冒す勇気も持つことも必要である。
  • 限界を示すことで不適切な行動を防ぐよう心がける。説明はポイントだけを明確に伝え、多すぎる説明はしない。
  • 認知症の方にとって分かりやすい規則結果という原則を維持していけるよう規則や手順を変えないこと。
例:トイレの場所を分かりやすく表示する。
  • ケアワーカーのよい判断力の「貸し出し」をする。(本人が判断しやすい材料となるようなヒントを貸し出する。決定は本人ができるよう、押し売りはしない)
  • 道徳的に非難したり、幼児のように扱う態度をとらない。人格を否定しない。
  • 認知症の方の何か適切でない行動を指摘するときは、このように考える。
  • 「誰にために、この指摘をしようとしているのだろうか?」小さなことを大げさにしないよう努める。「うるさい母親」のような行動は避ける。
  • 迷惑をかけそうな行動に関しては、前もって地域の方や、友人の話しておき、理解を求める。

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8.感情のコントロールが欠落してくる(欲求、感情、衝動のコントロール障害)

  • 人は情緒的感情的な面で成熟すると、混乱せずに悲しみや喪失の強い感情を受け止められることができるようになり、自分の感情に押し流されず、周りの現実を考慮することができる。自我の機能には恐怖、不安、葛藤、失望、欝的な感情に耐える能力が含まれる。また、攻撃的にならずに期待していた欲求の充足を引き伸ばすことができる能力も大切である。
  • しかし、認知症になると、自分のニーズや希望が満たされない時に感情をコントロールすることが困難となる。認知症の方が特に怒りの感情をコントロールできずに、攻撃的になることは、家族にとってつらいことであるが、このことは認知症の方の本来の性格が変わって、意地悪になってしまったことを意味するものではない。
感情コントロールの障害例
  • 待つことが難しくなり、要求がすぐに満たされることを求める。
  • 以前よりイライラや怒りを直接表現するようになる。
  • 感情の制御が利かない、泣き笑いが激しくなる。
  • 攻撃的な行動が起こりやすくなる。
  • 自分が望むニーズがすぐ満たされないと満足できない。待つことが難しい。
  • 衝動的発作が起こりやすくなる。(強迫的な食事の摂り方、抑制の効かない性的行動など)
  • 感情表現が乏しくなることもある。
感情コントロールの障害には必ず理由がある。
この理由を考えてみることが適切な対応のために重要である。
  • 自由が脅かされている。
  • 妄想や幻想が出現している。
  • 恐怖感がある。
  • 多くの人から、同時に話しかけられたり、高音などの刺激を過剰に受けている。
  • 時間的にせかされている。
  • 予期しなかったことが突然起こった。
  • 自分に対して、何を言われているのかわからない、あるいは理解ができない状況におかれている。
  • 身体的疾患、尿道炎、熱、あるいは痛みがある。
  • 間違った投薬や過剰な投薬を受けている。

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感情コントロールの障害時の対応
  • 攻撃的な爆発を予防することに努めるほうが、怒りが爆発してから対応し、中止させることよりも容易である。
  • どのような関連性で、一日のどの時間帯に認知症の方がイライラするのか、攻撃的な行動に導いた要因を調べてみること。
  • 認知症の方が感情的になっているサイン(素振り、身体言語、目の表情など)を読み取ることで攻撃的な行動を予防できる。
  • 認知症の方はどういう状況において、リラックスしてありのままでいられるかを考えてみること。そのような状況を最大限利用することで、感情的な行動を避けることができる。
  • イライラが感じられるときの対応
  • 介護者自身がの落ち着きを保つよう努力すること。
  • ストレスを招いている状況を修正すること。
  • 議論しないこと。
  • 多すぎる説明をしないこと。
  • 不安を感じたり、悲しくなったりするときの対応
  • 認知症の方が感じていることをうまく言語化できるよう、適切な言葉を探してあげる。
  • 慰めてあげる。(共感する)
  • 言葉と、体への接触によって認知症の方が安全圏にいるというニーズを満たすことができる
性的な行動に関して考えるべきこと
  • 認知症の変化に伴って、性的行動が顕著になるときもある。このような場合、どうすればよいかというマニュアル的な処方箋はないが、愛情とやさしさの要求が性欲の重要な側面であることは理解できる。したがってある程度そうした行動を緩和できるよう働きかけてあげることが必要である。
  • またパートナーや介護者に対しても、性的なデリケートな問題を相談できる社会資源(友人などの存在、スーパービジョン)が必要である。
  • いつも同じ対応をすること(丁寧にしかし、断定的に拒否する。)
  • やさしさや、親密性への要求が、性的な言葉で表現されていることが多いことを理解する。

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9.不安からは解放されなくてはならない(防衛機制)

  • 防衛機制とは欲求が満たされなくて心理的に苦痛な状態をうまく調整する心の動きであり、私たちが困難な状況に陥った時に精神的なバランスを保ち、現実から心を守ってくれる重要な機能である。短所は、私たちが自我の防衛を絶えず行うには多くの精神的エネルギーが要求されることである。
  • 原始的防衛機制:多様な角度から外界を白黒、善悪という風に二つに分けて判断決定する。
  • 高度な防衛機制:困難な状況に対応するための防衛機制。老いることは多様な困難をともなうので、老いること自体が多くの防衛機制を活性化させる。認知症を伴うとさらに防衛的になる。
  • ヨクアツ:自分の感情を押し込めて、情緒的な反応をしないという無意識的な心理作用。
  • 否定:重要な出来事が起きても、何も起こらなかったという風に装うこと。
  • 自己領域の縮小:失敗体験による屈辱感を味合わないように出来るだけ閉じこもり、生活範囲を縮小する。
  • 投影:受け入れがたい感情や衝動、観念を自分から排除して、他の人がそれらを抱いていると見なすことを言う。しばしばケアワーカーや家族が犠牲になる。
  • 特に男性は、他者に依存せざるを得ない自分に直面させられると、攻撃的な態度をともなった不安症状を見せるものである。
  • 例「ヘルパーがちゃんと仕事をしていない」「ヘルパーにお金を盗まれた」
  • 退行:子供っぽく以前より幼稚になる
  • 防衛には強い不安や不快な感情から自分自身の心を守るという目的があるので防衛機制を攻撃してはいけない。
  • 盗まれたという感情は、お金をどう処理したか忘れてしまったという感情よりも、認知症の人にとっては容易に受け入れやすい。
  • 防衛の中には疑い、否定、言い訳などが含まれ、ケアする人が個人攻撃や挑発行為を受けたと感じることがあるかもしれないが、自分は不十分で価値がないと思っていることを覆い隠そうとするためである。
  • 認知症の人が否定するとき、何が事実であるかについて認知症の人と議論することは適切ではない。
  • 情緒的にも知的にも、認知症の人に対して出来る限り成人として接する。
  • 幼児語を使って認知症のひとを幼児扱いしないこと。例×「マンマ食べようね」
  • 家族やケアワーカーが、認知症の人の防衛機制によって疲れ果てたり燃え尽きそうになった時には、そのプロセスの全てを誰かに聞いてもらうことと、何らかの休養を取ることが大変重要である。
  • 防衛力が衰えると、不安やパニック的反応が普通になる。
  • 「どうすばいいの?」「何をしたらいいの?」「自分が壊れてしまう」「自分が消えてしまう」

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10.依存性(非自立性)が増大する(自立性機能の退行)

  • 人にとって自立し、他人に依存しないことは自尊感情を維持するために極めて大きな意味を持っている。自立能力を失うということを考えること自体が私たちを恐怖に落とし入れ人格が根源から侵害され、冒涜されたように感じる。時に、情けない思いを荒々しい怒りに満ちた態度で表現することで隠そうとすることさえある。
  • 洗面・歯磨き・排せつなど日常の最も身近な行為において他人に依存しなければならないということは、認知症の人にとって極めて屈辱的な出来事である。
  • 認知症の人ができる範囲で他人に依存せず日常生活を営もうと努力することは、認知症ケアにおいて重要な目標である。
  • そのためには、ADL能力(日常生活をこなす能力)の継続的な分析に基づいて、自立できる部分については自己決定を尊重し、自立できないところをケアワーカーがその人の自尊心を損なわないように、尊敬と気配りを伴う慎重な態度で、援助する必要ことが重要となる。
  • 認知症の人が、たとえばなぜシャワーを浴びること(入浴)などを拒むのか、その理由を理解するよう努めること。(日常動作の一部に自立していないところがあって、困惑を避けるためにそれをしないのかもしれない)
  • 自立できていない行動について一歩先を行って、認知症の人が失敗することを避けるように努める。
  • 服が上手に着替えることができない人にはあらかじめ上手に着替えられるように順番に服を並べておく(ボタンやジッパーのないものが好ましい)
  • 石鹸をつかって顔を洗えない人には上手なタイミングで石鹸を渡す。
  • 選択肢が多くて困っている人には選択肢を減らす。
  • 家具や機器などの鋭利な先端は角を除去する
  • 歩きやすい紐のない靴を用意する
  • 食べ物と飲み物を混ぜる人には飲み物は食事が終った後に渡す。
  • 箸を使えない人にはスプーンやフォーク、あるいは手づかみで食べやすいものを用意したり、おにぎりにするなど調理に工夫を凝らす。
  • その人にあった規則的なトイレ誘導を行う(失禁は、その人にとって極めて人格が傷つけられること)
  • 自立可能な家事(じゃがいもの皮むき、配膳、食器洗いなど)に参加してもらう

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11.空想力が損なわれてくる(自我機能の退行)

  • 大人が一時的に子供的な空想や遊戯性を求めるのは、機智やユーモア、創造性、問題解決能力を高めるのに有力であり、人生に立ち向かうための良性の退行であるが、認知症の人はその能力を喪失していく。
  • そのため、一緒に笑い合うことは、重要なコミュニケーションの一つであり、認知症の人の滑稽な状況を認知症の人と一緒に笑い飛ばしたり、その状況をユーモアで表現することは双方にとってとても有益である。

12.全体性・総体と関連が喪失する(総合、統合能力の喪失)

  • 私たちの思考と感情と行動は一つのユニット(全体性総体性)を作り上げ、人生のさまざまな分野から得た経験を融合することによって、激しい感情の波に破壊されることなく、統合された人間であることを感じることができ、安定した人生を歩むことができる。
  • 同様に高齢者も、人生を振り返り、自分自身が生きてきた一度きりの人生の全体を受け入れ、肯定的に締めくくりをしたいという要求を持っている。そうすることで、人ははじめて存在の総体と意義を感じることができる。
  • 認知症になって、どのような人生を送ってきたか思い出すことが難しくなると、人生をとりまく総合的な視野が失われ、過去の出来事は絶えず現在の出来事と混ぜ込められてしまい、思考、感情、行動を関連づけ、統一する能力が衰え、突然混乱したり破滅感(自分が壊れてしまう感覚)を覚えることがある。
  • ケアワーカーは関連性を失った認知症の人の記憶と体験を、意味のある物語に作り上げ、その人が自分自身の人間像(自画像)を総体的にまとめられるための援助を行い、その人の生活史と人生への考え方を、出来る限り理解する必要がある。
  • その人が生きてきた人生を話し合う
  • 一日のうち短い瞬間でも自分自身の存在の意味が感じられるようにその人が話をしたがっている時は傾聴する
  • 将来に関する考えを認知症の人が話そうとしている時は、一生懸命耳を傾ける

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自我の内側にあるものは何なのでしょう

  • 人の存在の意味が脳機能プロセスによってのみ意味があるとすれば、人の価値観は脳機能によって意味づけられ、脳機能が優れているかどうかによって比較され相対化されてしまうが、全ての人には脳機能を超えた、奥深い大切なもの、すなわち「心」があり、それがその人の価値を固有で意味あるものにしている。つまりその人が存在することは、その人自身にとって価値があり、意義があるのである。
  • 認知症の人も同様に、脳機能が衰えてしまったとしても心は失っていない固有の価値を持つ存在であることを認めることが重要である。
  • 私たちのいる先進国は、激しい競争社会にさらされており、「勝ち組負け組」といった競争能力の優劣によって他者から評価されるという過酷な状況の中でともすれば「心」を失いがちであるが、より人が心健やかに生きていくことができるようになるためには、能力の高低にかかわらず、またたとえ何らかのハンディキャップを抱えていたとしても、全ての人にその人固有の恒久的な価値があることを認め、その価値が冒涜されないような社会を作っていく必要があり、認知症の人の、人としての価値や人格の独立性や自己決定という当たり前の人としての価値を認めることを、認知症の分野で開始することには普遍的で重要な意味がある。

認知症の人を支えるために

自我を支える対応とは

  • 認知症の人は、自分という人間-自我を保持し、理解するために周りからの援助を必要とする
  • 認知症の人は、自分がどのような人間であったのか、そしてあるのか、理解し、感じるために支えが必要である
  • 自我を支える対応は認知症の人の衰えた自我の機能を強化し、援助することを目的とする
  • 衰えた機能を補助するには、認知症の人が持つ自我の様相がどのようなものであるか知ることが必要で、多様な自我の機能がどのくらい保持されているかということを分析しなければならない

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認知症の初期段階において自我を支える対応法

病気が初期段階にある認知症の人に対する介護職員の機能:「自助(自立)に対する援助」

例)アドバイスの提供 動機付け、確認と指導、励まし

  • 認知症の人の心の声に耳を傾け、感情を受け止める:感情を受け止める「器=ホルダー」になる
  • 認知症の人が複雑な感情をうちに抑えられないということを理解することが大切である
認知症の人が抱く思い、不安を言葉に表現できるよう援助する
  • 恐怖に満ちた、あるいは混乱した感情や体験に対応しやすくなる
  • 援助ニーズが高くなったときに自我を支える方法

認知症の人の機能に深刻な欠陥が生じる場合の家族や介護職員の機能:「補助自我」

自分の記憶、見当識、判断力などの自我機能を認知症の人に「貸す」ことを意味する
  • 認知症の人の習慣、価値観、人格を知り、尊敬することが重要である
  • 介護職員が補助自我の役割を果たすことで、認知症の人の人生や生活の質が高められ、自尊感情が保持される
認知症の人が持っている要求(ニーズ)に耳を傾け認知症の人の要求水準に適応する
  • 健康な部分を刺激する
  • 認知症の人が実現できる最高の機能水準を探し出すことが重要である

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認知症ケアのスーパービジョン

「自我を支える対応法」に基づいたスーパービジョン

1.認知症ケアのスーパービジョンとスーパーバイザー

  • 認知症ケア分野で働く人にとっては自分の体と心が重要な道具であり、情緒的あるいは精神的に絶えず試練を要求される職業グループのひとつだといえる。その人たちの“燃え尽き症候群”を防ぐには、多様な支援や援助が必要である。
  • そういう意味でスーパービジョンは現場で働く人たちが仕事に対する意欲や喜びを感じ、関心を高揚させる上でなくてはならない支援の方法といえるが、現状としてスーパーバイザーが十分確保されていない。
  • 最高のケアを提供するには、介護職員のすべてが共通の視点をもち、同じ原則に基づいて実践することが必要である。共通の方法を持つことにより、身体的、精神的な介護環境を確固としたものにし、認知症の人たち自身も提供される介護の内容をより深く理解することが可能となる。そのことが介護を受ける人たちの安心感を高め、それぞれの人が保持している能力を発揮してもらうことができるからである。
  • 「自我を支える対応法」は、認知症の人が内包する多様な能力(自我機能)を総合的に見ることであり、それぞれの人の能力に応じて対応することである。介護職員は障害を持つ人たちの自我を支援する存在として、その人たちの昔の心理的葛藤を掘り下げ、分析するのではなく「今、ここで」機能する能力を保ち、強化することを目的としている。
  • ここでは自我を支える対応法に基づいたスーパービジョンとはどうあればいいのか、スーパーバイザーの役割と、スーパービジョンの過程について説明していく。

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2.なぜ、スーパービジョンが必要なのか?

スーパービジョンが重要な理由
  • 安心して話し合いができる環境において職員が専門職として成長し、必要な専門能力を発展させることを援助するために
  • 認知症の人やその家族に対する理解と知識を深めるために
  • 認知症の人たちをよりよく理解し、正しく対応するための新しい方法を発見するために
  • 介護者の実践の正しさを確認し、する。ぐれた介護内容を評価するために
  • 認知症ケアが重要であり、有意義であることを強調するために
  • 介護者の問題解決能力を高めるために
  • いつも創造的であるために
  • 精神的負担の重い仕事によって生じる疲れや消耗感を軽減するために
  • 人に「与え」、自分を「満たす」という精神的バランスを図るために
  • 介護者の実践とその根拠を明確にするために
  • 仕事や自分に対する期待感を現実的なものにするために
  • 仕事仲間に対する理解を深めるために
  • 共通の対応の仕方と共通のケアの思想を発展させるために
スーパービジョンとは
熟練したソーシャルワーカー(スーパーバイザー)が、現場のソーシャルワーカー(スーパーバイジー)から援助内容の報告を受けながら、専門的な判断能力や、処遇、援助技術の向上、適切な態度や職業倫理の習得を目的に実施される教育訓練の方法。ワーカーのニーズに応えつつ自己覚知自己洞察を深めていくという関係が基本におかれる。

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3.スーパーバイザーとして求められることとは?

(1) 人間観と価値観
  • 基本的な価値観は、認知症の人たちへの総合的な人間理解と独立した人格の尊厳に求められる。人道的な人間観は、個人の自由と責任を重視し、それぞれの人が内包する自己評価への尊敬の念によって形成されるものである。全ての人がユニークでしかも対等な価値を有する存在である。
  • スーパービジョンは人道主義的な人間観と価値観を出発点とすべきであり、スーパービジョンはスーパーバイザーの価値観が反映される。
(2) 資質と専門性
  • スーパービジョンにはスーパーバイザーのパーソナリテイ(人柄)が反映される。資質として、人間的なあたたかさ、正直さ、ユーモア、関心、受容する態度、人を理解したいと意欲を持っていることが上げられる。倫理的な知識をきちんともっていること、自分の限界を見極め、自分の問題とスーパービジョンを受けるグループのニーズを区別する能力も不可欠である。
  • 専門性として、スーパーバイザーは認知症に関する十分な専門知識を持っていることが必要である。認知症とその障害が与える影響と結果に関する知識と共に、グループプロセス、防衛機制や危機反応などの心理学的知識を持っていることと分析思考能力があることが望ましい。

4.多様なスーパービジョンの視点

認知症ケアにおいて体系化されたスーパービジョンは行われてこなかったが、「ピアスーパービジョン(仲間同士の助言と援助)」は同僚間で行われてきた。現場で職員に対して多様な形で指導を提供することは職場の責任者の任務である。

職員間の問題を処理することは、原則としてスーパービジョンの枠外である。スーパービジョンが焦点を置く分野は多様であるが、次の3点にまとめられる。

1.職場の組織と構造

職場の組織や日常の勤務形態や内容は、関係者に多くの疑問を投げかけている。自分たちの職場について職員が最も議論したのであれば、職場の組織と構造に焦点を置くスーパービジョンから始めるべきである。

2.介護職員の体験と感情
  • 介護の現場で起こる事態とその過程に焦点をおくスーパービジョンをプロセススーパービジョンと呼ばれる。
  • プロセススーパービジョンにおいては職員が体験する感情的な側面が中心的な課題となる。たとえば、「Aさんがケアワーカーを拒否したときにケアワーカーはなぜ、そんなに悲しくなったのでしょうか?」「ケアワーカーがB氏にシャワーしたときにケアワーカーが必要以上の強制を彼に要求したとCさんが指摘するとしたら、ケアワーカーはそれをどのように受け止めるでしょうか?」という質問がスーパーバイザーからなされることになる。
  • 介護現場で職員がどのような体験をし、どのような感情にさらされ、そのことが認知症の人との対応のあり方を考える上で重要だからである。
3.認知症の人と介護職員の相互作用

スーパービジョンにおいて重視するのは、認知症の人と介護職員に起こりうる相互作用である。認知症の人はスーパービジョンの対話においては主役の役割を果たす。

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自我を支える対応法から見たスーパービジョン

目的
  • 認知症の人を一人の人間として理解することに基礎を置く自我を支える対応法を、スーパービジョンの参加者(介護職員)が修得し、さらに発展できるよう援助する。
  • 参加者が蓄積してきた「潜在的な知識」を言葉にすることによって実践の意味を明確にし、専門的能力をより発展させられるよう援助する。
  • 認知症の人とのコミュニケーションの内容を参加者が理解し、振り返ることへの関心を高める。
  • スーパービジョンは、個人的にあるいはグループで提供することができる。認知症ケアの分野では、グループスーパービジョンのほうがよりよい効果が得られやすい。スーパービジョンを始める前に認知症ケアにおける自我を支える対応法に関する知識を参加者が持っていることが必要である。そのため準備的な学習サークルを組織化することもよい方法である。

5.スーパービジョンの過程

スーパービジョンの過程は4つに分けることができる。

(1)準備の段階
  • スーパーバイザーと職員グループがまず顔を合わせることが大切である。
  • 最初の会合は自由な雰囲気であることが必要である。グループの参加者がスーパーバイザーの人間観、経歴や経験ならびに人柄を把握できることが重要である。スーパービジョンの内容や目標に対するグループの要望も取り上げられなければならない。これらの過程を経てグループから出された提案や希望をスーパーバイザーは検討することによって、スーパービジョンに関する自分の考え方や方針をグループに伝えることが可能となる。
  • 最初の会合には上司。グループリーダーを含めて全ての人が参加することが重要である。スーパービジョンへの参加は、職員会議やその他の会議と同様に、職員の権利であり、義務として位置づける必要がある。
  • スーパービジョンの目的のひとつは認知症の人にとって重要な意味を持つ共通の対応法を職場に確立することである。スーパービジョンが義務として位置づけられれば全ての人に参加が要求され、スーパービジョンに主体的に取り組む努力がよりよい結果をもたらすだろう。以上の観点から準備段階では、スーパーバイザーと職員グループ間の合意に基づく契約が文書、あるいは口頭で交わされることが必要である。

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契約

契約はスーパービジョンのための実務的な枠組みと合意内容を確認するものである。以下のことに関する申し合わせが必要となる。

  1. グループの編成
  2. スーパービジョンの時間と場所
  3. 秘密保持に関して
  4. スーパービジョンの内容形成
1.グループの編成
スーパービジョングループはひとつの職員グループによって構成されるのが原則であるが、他の現場の職員も入れて構成することも可能である。適切なグループの大きさは5人から7人。誰にも参加の機会があたえられることが重要である。グループ内で自由に発言できる安心感が確保されるためには、参加者が毎回、「決まったグループ」であることが望ましい。
2.スーパービジョンの時間と場所
1回のスーパービジョンに必要な時間は60分から90分。スーパービジョンを持つ頻度としては2週間に1度が最適。継続することが重要であり、長期間にわたって、同じスーパーバイザーによってスーパービジョンが運営されることが理想的である。スーパービジョンに使用される部屋が外部からの影響を受けない場所に位置することは重要である。全ての参加者がお互いを見届けられるような座り方(たとえば円形)を考慮する必要がある。
3.秘密保持に関して
スーパービジョンの場において発言されたことは第三者に漏らさないという合意と確認がグループ全体に求められる。スーパービジョンの契約が交わされるときに、スーパーバイザーならびに参加者の秘密保持義務について確認、合意が必要である。スーパーバイザーは、参加者に対してスーパービジョンの場での発言内容は外部に漏らさないという秘密保持を明確にする必要がある。また、スーパーバイザーは経営者あるいは管理者のいずれにも属さないことを明言する必要がある。これらのことは、スーパービジョンが相互の信頼関係の下に実施されるために重要な前提となる。

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4.スーパービジョンの内容形成
  • スーパービジョンの内容構成については全ての参加者の合意が必要である。自我を支える対応法は、多様な形であるパービジョンに適用することができるといえる。一人の認知症の人を事例に取り上げ、その人の多様な能力を分析し、対応法や接し方を議論したり、特別な状況や具体的な問題から出発することもできる。
  • スーパービジョンで話し合うためにグループがどのくらい事例の下準備ができるかが重要である。
  • スーパービジョンの経験がないグループであれば、スーパーバイザーがグループの一員に次回のスーパービジョンにおいて、特別な介護状況や特定の認知症の人を事例としてとり上げるよう支持することが望ましい。
  • スーパービジョンを既に経験しているグループであれば、参加者全員が次回の集まりにおいて取り上げたい問題や事例を考えてくることを確認していく。
  • スーパービジョンへの責任は、スーパーバイザーとグループの両方に求められる。グループの責任者は約束した課題が準備され、選ばれたテーマが積極的に議論されるよう努力する必要がある。スーパーバイザーは、議論が定められたテーマの枠に沿って進められ、発展させられることに責任を持つことが重要である。

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(2)お互いに学びあい、知り合う段階
  • スーパービジョンの最初の段階ではグループの間に信頼感と安心感を生みだす努力がスーパーバイザーに求められる。スーパーバイザーは、スーパービジョンに慣れていない不安を感じている参加者を慎重にサポートしていかねばならない。
  • スーパービジョンの中で沈黙は、自分を鞭打ち、何か「賢明な」ことを発言しなければならないという強いられた気持ちを参加者に抱かせるため、長い沈黙は回避すべきである。
  • お互いに学びあい、知り合う段階ではスーパーバイザーはスーパービジョンに関する質問や参加者が自分の考えを出しやすいような機会を設けることも必要になる。
  • スーパーバイザーは、グループの参加者の名前を覚え、参加者全員が発言できるようにすることが任務となる。沈黙しやすい人を永遠の沈黙者にならないようにすることも重要である。
  • スーパービジョンの初期の段階の目標は、参加者全員がスーパービジョンを最善の形で利用できるために必要な安心感を作り上げることである。
(3)実践段階
  • 本格的なスーパービジョンが展開されるのが実践段階である。参加者は認知症の人の多様な能力を整理し、それに基づいて適切な自我を支える対応法を検討し、深めていく段階である。
  • スーパーバイザーはグループの積極性を抑制するほど主導的になってはならない。参加者が持っている能力と創造性を引き出し、グループの能力と自発的な提案を尊重することが求められる。
  • 実践段階では、スーパーバイザーは以下のことを自分に問いかける必要がある。
  • 自分は、開放的で受容的な雰囲気を作り出すよう努力しているだろうか?
  • 参加者の発言に積極的に耳を傾けているだろうか?グループの参加者一人ひとりの存在を認め、確信を与えているだろうか?
  • グループが検討する作業を十分に援助しているだろうか?
  • 自分はスーパービジョンを独占していないだろうか?グループの活動を抑制していないだろうか?
  • 自分の知識や経験を低く、見すぎてはいないだろうか?
  • スーパービジョンを進行させるにあたって、体系が維持されているだろうか?
  • スーパーバイザーとしての自分の役割は参加者の目に明確だろうか?
  • グループにとって自分は「倫理的な指針」となっているだろうか?
  • スーパーバイザーがグループ参加者と共に自分の実践を振り返ってみることは、「正しい方向に向かっている」のか否かを明確にしてくれる。何がうまく機能し、何を変革しようと考えているかも明確になる。

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(4)最終段階
  • 明確なグループ契約には、終了時期の段階が含まれるが、契約内容を途中で話し合い、期間を延長することは可能である。スーパービジョンを継続する必要があるかどうかを分析し評価をせずに延長しないことは賢明である。
  • スーパーバイザーとして参加者から否定的、あるいは肯定的な感情が吐露されることをわきまえておく必要がある。
  • またスーパーバイザーは参加者に余裕を持って、スーパービジョンが終了に近づいていることを知らせる必要がある。
  • 取り組まれてきたこと、達成したことをまとめることが重要であり、全体の評価もまとめの段階に含まれるといえる。
評価
  • グループの参加の仕方とスーパーバイザーの指導のあり方の両方に評価の焦点がおかれる。評価は文書、あるいは口頭で行うことができる。何を評価するか、評価表の作成をすることが望ましい。下記に上げるのは、参加者の評価項目。
  • スーパービジョンによって、認知症の人に対するケアワーカーの理解力は深まったか?
  • 自我を支える対応法を発展させるための援助を受けることできたか?そうであれば、その内容を説明する。
  • グループとして、共通の対応法を見つけることが容易になったか?
  • グループの雰囲気はどうだったか?自分の意見や考えを自由に述べれたか?
  • スーパービジョンでの話し合いで、ケアワーカーは十分周りから注目され、尊敬の念を持って接してもらえたと思うか?
  • スーパービジョンの体系は守られたか?
  • スーパービジョンの構成について変えたいと思うところがあるか?そうであれば、どのように変えたいか?
  • ケアワーカーは私がスーパーバイザーとして十分役割を果たしたと思うか?次回のスーパービジョンに向けて私が考慮したほうがいいと思うことが何かあるか?

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6.スーパービジョンの時間構成

スーパービジョンは次のような流れで毎回行われる。

(1)導入
スーパービジョンを柔軟にスタートさせることは非常に重要である。グループの参加者はグループ全体に溶け込み、集中するための数分間が必要である。話し合いの前に参加者の出席、欠席を確認する。
(2)前の過程のフォローアップ
スーパーバイザーは、前回に何が議論されたかを短くまとめる必要がある。同時に、まだ議論し尽くされていない考えや質問を取り上げる機会を作ることが重要である。
(3)介護を受ける人や介護状況の紹介
この時間は、後の話し合いのための基礎を作っている。前のスーパービジョンのときに交わされた合意に基づいて、参加者が事例として取り上げたい認知症の人を紹介する。十分に準備された事例紹介であることが必要である。
(4)事例紹介に基づいた議論
スーパービジョンの核心をなす部分である。認知症の人の自我機能を全体的に把握するには、グループの全員が協力して認知症の人の多様な能力を整理し、まとめる必要がある。
スーパーバイザーの役割は、質問を投げかけることによってグループの議論を進め、グループが適切な対応法を見出すことができるように支援することである。また、スーパーバイザーはグループの全員が発言できるよう、全ての人の発言がみんなの尊敬をもって迎えられるよう見守る必要がある。
(5)まとめ
最後の時間は交わされた議論のまとめに使われる。グループが到達したことは何だったか?さらに先に進めるにはどうすればよいか?到達した事柄をグループはどのように職場での実践に結び付けられるか?
まとめの時間は穏やかな終結を迎えるため、終わりに近づいたら新しい問題は取り上げないようにする。
スーパーバイザーは、スーパービジョンの終了時にグループの誰一人として自分が理解されなかったとか、いやな対応をされたと感じないよう努力する必要がある。また最後に次回のスーパービジョンの事例紹介者を決める必要がある。

7.スーパーバイザーの振り返り作業

  • スーパーバイザーには、スーパービジョンの経過を整理するシステムが必要である。
  • 毎回スーパービジョン後、出席者、話し合われた内容、事例紹介をした参加者、到達点は何であったかを記録していく。記録することは、スーパーバイザーが全過程を振り返り、グループに生じたことを検討するうえで重要なことである。
  • 1回のスーパービジョンの終了後、なるべく早く起こったことを記録することが望ましい。記録作業のための時間の確保、記録の秘密保持、記録の保管場所に留意する必要がある。

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8.スーパーバイザーの役割と基本的姿勢

  • スーパーバイザーは自分の基本的姿勢と人間観を参加者に示すことによって、スーパービジョングループに参加する人たちの手本となりうることができる。参加者はスーパーバイザーの認知症の人に対する理解と対応の仕方を通して、自分の認知症の人に対する対応の仕方を学ぶ。スーパーバイザーは、認知症の人を見下す態度や軽蔑的な言葉使いは厳しく指摘することが重要である。スーパーバイザーは、「倫理的な指針」たる存在であることを要求される。
  • スーパーバイザーのグループ参加者に対する対応の仕方が、参加者の認知症の人に対応する対応に重要な影響を与える。
  • スーパーバイザーはスーパービジョンが参加者にとって興味深く楽しいことであると伝えられたら、認知症の人の介護にも好ましい影響をもたらすことができる。
  • スーパーバイザーとしてユーモアを駆使できることは歓迎されるべき長所である。
  • スーパーバイザーが参加者に対して、思いやりを持って関わりあうことはきわめて重要である。スーパーバイザーとして参加者に対して、個別的にまた積極的に関わるべきであるが、参加者の独立した人格と私的な領域を絶えず考慮しなければならない。
  • スーパービジョンにおいては、スーパーバイザーは全ての参加者に中立であるよう最大限努力することが重要である。
  • スーパーバイザーは、参加者の整理されていない多様な感情を受け止めなければならない。時には、グループの投影としてスーパーバイザーが全員の標的になり、その結果、参加者の怒りや嫌悪など否定的な感情がスーパーバイザーに向けられることがある。
  • スーパーバイザーが自分を受容できることは、スーパーバイザーの仕事をこなすことを容易にしてくれる。全てを理解できないことや、全ての質問に答えを得られないことを受け入れる能力を発達させることが必要になる。
  • スーパーバイザーは無理解、無力、絶望、怒りなどの感情を携えていかねばならないので孤独である。そのため、スーパービジョンを行う期間、スーパーバイザー自身が自分のためのスーパービジョンをいつでも得られることが重要である。
(1)技術と整理方法
  • スーパービジョンにおいて、議論を整理し、先に進めることはスーパーバイザーの責任である。
  • 質問という形態は、もっとも有効な整理方法である。質問が体系的な方法で投げかけられれば、議論内容をより明確にすることができる。
  • 「もう少し詳しく話してくれませんか?」「音に対してA氏はどう反応するのでしょうか?」「たくさんの人の集まる場所では、A氏はどのように反応するのでしょうか?」
  • 「このような場合にA氏に対してどのような援助ができるでしょうか?」
  • 普遍化一般化することはグループの参加者の緊張感を和らげる。ある状況における対応の仕方が実は普通であるということを証明することは、その対応がそれほど特殊でないのだという確信をグループに与えることができる。
  • 「よく理解できるよ」「A氏のやり方にはだれもがいらだつと思いるよ」「ケアワーカーの問題は私たちすべてに共通のことである」というように。
  • 反省と明確化も議論を深めさらに先に進めることができる。
  • 「ケアワーカーが考えたことはこのようなことでしょうか?」「ケアワーカーが意味することを私は正確に理解したでしょうか?」このようなコメントは参加者が考えていることをより明確にする。
  • 確認と励ましによって、それほどまとまっていない、あるいはよく考え抜いた意見ではなくても参加者は発言する勇気を得る。
  • スーパーバイザーはグループの参加者の私的な領域には踏み込まない。参加者の発言に対して「そのことはケアワーカーに何らかの関係があるのではないであるか?」「ケアワーカー自身はどうなのであるか?」などの質問を避ける

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(2)グループの抵抗
  • スーパービジョンにおいて生じる抵抗は、スーパービジョンに反発するためにグループが意識的、あるいは無意識的に使う「策略」だと理解することができる。抵抗することは逃避、あるいは変革に対する防衛を意味することが多い。変革のための作業は不安や心配を生み出する。ものである。
  • スーパービジョンにおいてみられる抵抗は、多様な形で現れる。たとえば、参加者が次のような態度や行動に出るときである。
  • スーパービジョンを忘れる。
  • スーパービジョンを茶話会にしようと試みる。
  • スーパービジョンに遅刻する。
  • 準備をしてこない。取り上げる問題が何も無いという。
  • 無関心、疲れた顔をする、面白くないという顔をする。
  • 横道にそれる。
  • 沈黙(攻撃的な沈黙)、拒否。
  • 最も議論されなければならないことを拒否して取り上げようとしない。
  • できあがった答えとスーパーバイザーの問題解決を要求する。
  • 参加者がお互いに張り合う。
  • 権威的存在に抵抗し、スーパーバイザーに戦いを挑んでくる。
  • 参加者の多様な抵抗を見抜き、何が起こりつつあるかを理解することが重要である。自分の感想をグループに率直に話すことが適切な場合もある。また、スーパーバイザーはスーパービジョンの始まりに、スーパービジョンが負担に感じられるときに「さぼりたくなる」ことは極めて普通で自然なことであると話すこともひとつの方法である。

9.スーパービジョンの一例

  • ある認知症のグループ住宅で持たれているスーパービジョンの集まりにおいて、最近入居してきたサラアンダーションについて話すことが決まった。グループの参加者の多くは彼女はグループ住宅に入居するほど認知症が深刻ではないと考えている。
  • スーパーバイザーはサラのコンタクトパーソン(担当介護者)のスヴェンに彼女の背景と彼女の保持している能力を次回に事例として紹介するように依頼した。これは、グループがサラに対して、どのような自我を支える対応法が適切であるかを議論するための資料として使うためである。
  • 次回、スーパービジョンの集まりのもたれた時点でスヴェンはサラの子供の一人と面接を済ませていた。スヴェンが次のように話してくれた。

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1生活史
  • サラは現在82歳。1ヶ月前に今住む認知症のグループ住宅に入居。彼女の二人の子供は、サラが住むことになる住居に、彼女が使い慣れてきた家具を移して、できるだけ以前の彼女の自宅に近づけるよう整えた。サラは数年前に未亡人となり、夫亡き後、小さな食料品店を受け継いで営んできた。
  • 数年前、インシュリン療法を必要とするかなり深刻な糖尿病を患う。外見はとても元気で活力があるように見え、外見に心を配るため82歳よりずっと若く見える。彼女は7人兄弟の長女で下の兄弟の面倒をずっとみてきた。サラが14歳のときに母親が亡くなる。サラは若くしてシックステンと結婚、2人の子供をもうける。スヴェンはサラが有能で自尊心の強い人だという印象を受けたと報告する。
  • 1年前にサラは認知症診断を受け、血管性認知症であることが判明した。認知症のグループ住宅に入居した理由のひとつに、深夜徘徊しているところを警察官に何度も発見されたからだ。
  • 以前サラは、インシュリン療法を自分で管理できたが、この1年間は自分でインシュリン注射を打てなくなっていた。そのため、地域看護師に毎日訪問してもらい、注射を打ってもらわなければならなかったが地域看護師が訪問しても、サラは不在のことが多かった。また、家にいてもドアを開けないことがしばしばあったと報告されている。そういう時はサラの子供たちに連絡が取られ、家に来てもらうようになった。
  • しかし、サラの生活能力は悪化し、一人住まいが困難となり、現在のグループ住宅に引っ越すことになった。一番大きな問題は、自宅ではなく、なぜ認知症のグループ住宅に暮らさなければならないかをサラがまったく理解できないことであった。彼女は、彼女自身に問題があることを否定し、家に帰るために一日に何度も荷造りする。彼女が腹を立て、帰るのをとめようとする職員を突き飛ばすことがたびたび合った。彼女は職員を「刑務所の番人」と呼ぶ。子供たちの訪問も減ってきた。サラは子供たちに頻繁に電話してする。ぐ、迎えに来るように言うのだった。

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