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バリデーション技法ガイドライン
「認知症ケア」のミッションは、認知症を抱える人が、知的・身体的な残存能力を十分に活かして、抑制されることなく、固有の人格として尊厳ある処遇を受け、最期までその人らしく生ききることである。バリデーションは、そのための有力なコミュニケーション技法である。バリデーションのゴールはコミュニケーションを通じてその人を知ることであり、そのことを通じて周辺症状への対応をより適切に行うのに役立つが、問題解決自体を目的にするスキルではない。
バリデーションの原則
- 全ての人はそれぞれユニークな存在であり 一人ひとり個別に対応しなければならない。例え混乱した状態であったとしても、全ての人は貴重な価値ある存在である。
- 認知症の方は無条件で共感(相手の心理的状態を感じ取ること)・受容されなければならない。共感と受容は信頼を築き、心配を減らし、尊厳を取り戻す。
- 利用者の習慣となっている行動を強制的に変える事はできない。本人が変えようと思わない限り、変える事はできない。→どうすればその気になるか考えアプローチしよう。
- 認知症の方の混乱した行動には、必ず理由がある。認知症の方の行動には脳の構造上の機能変化だけでなく、長い人生の中で起こる身体的、社会的そして精神・心理的プロセスが反映されている。人は人生の中で、様々な課題に突き当たりながら生きている。その課題を十分に解決できずに過ごしてきて、高齢期に認知症になった時に、そのことが心の中でやり残した課題として深く残っており、それがBPSD(障害された知能レベルで生活するときに生じる感情の変化、行動の異常など行動・心理症状:周辺症状、問題行動)として現れる。
- BPSDは過去ではなく現在の不適切な処遇からも起こる可能性について忘れないでいることも重要である。現状に起因するBPSDは主に4つの理由からおきる。
- 1. 周囲から傷つけられたとき(無視も含む。居心地の悪さ)
- 例:空の食器をお箸でかんかん叩く。
- 2. 役割を見出せないとき
- 例:夕方に子供の帰りを待つために玄関のところに行く。
- 3. 感情が発散できないとき
- 例:ほかの入居者に対してバッシングを行う。
- 対処法:ネガティブな感情表現も含めてあらゆる感情表現の表出を促し、肯定的に受容・傾聴する。
- 4. 愛情が満たされていない時
- スキンシップ、ハグ、親密なアイコンタクト、笑顔
14のバリデーション技法
| 技法1 | センタリング(相手に集中する) | ケアワーカーの基本的な態度 |
| 技法2 | 相手の「事実」に基づいて会話する | 言語的コミュニケーション |
| 技法3 | リフレージング(本人の言うことを繰り返す) | 言語的コミュニケーション |
| 技法4 | 極端な言い方をする | 言語的コミュニケーション |
| 技法5 | 反対のことを想像してもらう | 言語的コミュニケーション |
| 技法6 | 思い出話をする | 言語的コミュニケーション |
| 技法7 | 真心をこめたアイコンタクトを保つ | 非言語的コミュニケーション |
| 技法8 | 相手に合わせて曖昧な表現を使う | 言語的コミュニケーション |
| 技法9 | はっきりとした低い優しい声で話す | 言語的コミュニケーション |
| 技法10 | ミラーリング(相手の動きや感情に合わせる) | 非言語的コミュニケーション |
| 技法11 | 満たされていない人間的欲求(感情)と行動を結びつける | 基本的な考え方 |
| 技法12 | 相手の好きな感覚を用いる | 非言語的コミュニケーション |
| 技法13 | タッチング | 非言語的コミュニケーション |
| 技法14 | 音楽を使う | 非言語的コミュニケーション |

特に重要な技法の解説
技法1:センタリング
認知症の方と上手にコミュニケーションしていくためには、自分自身の“怒り”や“いらいら”といった否定的な感情をできるだけ身体の中から追い出し、相手に対して気持ちを集中させることが大切であり、センタリングをすることで、相手の感情に集中していくことができる。バリデーションのセッションはこのセンタリングから始まる。ケアの現場で認知症の方の混乱や自分への予想外の言動に接すると、自分自身の感情が乱れることが多々ある。自分自身が感情的に反応して腹を立てたり、苛々した時には、その感情を押さえ込むのではなく、自分の感情に気づき、その感情を命名して手なづけ、そっと手放す。どうしてもネガティブな感情から自由になれない時はその場を離れ、別のスタッフに委ねる。
- a.ナオミ・フェイルの本による方法(3分)
- 下腹(ウエストから下5cm)に神経を集中させる。
- 鼻からゆっくり息を吸い込み、身体を新鮮な空気で満たす。ゆっくり口から息を吐き出す。
- すべての思考をとめ、自分自身の呼吸にすべての意識を集中させる。この手順をゆっくり8回繰り返す。
- b.心で呼吸を数える方法:普通に呼吸をする。息を吐く時に呼吸を数える。
- 吸って、吐く時に(一つ) 吸って、吐く時に(二つ) 吸って、吐く時に(三つ)・・気持ちが落ち着いたら終了する。
- c.深呼吸をするゆっくり吸う、呼吸を止める、ゆっくり吐く。これを繰り返し、気持ちが落ち着いたら終了する。
技法2:相手の事実に基づいて会話する
- 相手の信じる、あるいは主張する事実に基づいて会話する。相手にとっての「事実」はたとえ客観的には間違いであっても、「現実」として受け入れ、相手にとっての「事実」の世界でコミュニケーションする。→ケアの現場で、相手の今居られる「現実」はどこなのだろうと、知る為に質問をしていく。
- 感情言葉ではなく、事実言葉で話す
事実を聞く質問に集中していく。「誰が」「何を」「どこで」「いつ」「どうやって」。ただし、「なぜ」という質問は避ける。相手を問い詰めてしまうから。
- 例:財布を取られた」
- ○ 「財布を取られたんですね」「だれにとられましたか?」「どこにおいていたんですか?」
- × 「それはつらいですね」「それはくやしいですね」
- 例:「ご飯食べてない」(食後)
- ○ 「おなかすいてるんですね」「なにがたべたいですか?」⇒好きな食べ物に話を広げていく。
- × 「さっき食べたところですよ」
技法3:リフレージング(本人の言うことを繰り返す)
おなかがすいた→お腹が空いたんですね。理念と実践の指針(繰り返し)を参照
リフレージングは傾聴の証の一つである。認知症の方は、相手が自分の言うことを繰り返して、それが確認されると安心される。このとき、同じ言葉を繰り返すだけでなく、声の大きさや抑揚などもできるだけ本人と同じようにする。
※認知症の方の言いたいこと、気持ちを100パーセント分かることはできない。しかし、自分が相手を分かろうとしている人であることを、相手に感じてもらえることで安心され、信頼関係が成り立つ。⇒非言語的コミュニケーションが効果的。言葉も大切だがアイコンタクトや適切な表情はそれ以上に重要。
技法4:思い出話をする。
過去を尋ねることによって、見当識障害のある方が現在失ってしまったものを、過去に用いていた方法を利用して取り戻すことができる。
例:「夜が眠れなくてね」→「お若い頃も眠れないことがありましたか?」「お若い頃は眠れない時どうされていましたか?」
- ※「反対のことを想像する」(技法5)と一緒によく使用する。
- ※ ケアの現場で、認知症の方に関心を寄せ、生活史を知るためによく用いる。その方らしさを引き出す。
技法5:真心をこめた笑顔のアイコンタクトを保つ:コミュニケーションの基本→理念と実践の指針パネルを参照
技法6:満たされていない人間的欲求と行動を結びつける。
一見理解しがたい言動の背景を探究する習慣を身につける
認知症の方の混乱した行動の裏には、必ず理由がある。理由を知ることでケアのてがかりとなる。認知症の方ご本人やご家族に尋ねていく。
例:物取られ妄想、⇒若い頃、お金で苦労した。子供を育てるときに食べるものも食べずに育ててきた。