ホスピス日記


ホスピスと緩和ケア病棟の違い

更新日時
2012年10月30日(Tue)

 今年の9月15日から23日の間、「デーケン先生と行くドイツホスピス視察研修」に参加した。ある疑問の解答を見つけるためだった。日本の厚生省基準に該当する緩和ケア病棟は一か月以上の長期入院が多いため病床回転率が低く、待機が数か月に及ぶことが普通にあり、患者家族が希望しても中々入院までこぎつけず、常に病床不足の感がある。
 私は今までオーストラリアとイギリスのホスピス緩和ケアシステムを短期に視察したが、ホスピスへの入院適応は原則として症状増悪時の緊急・至急入院とレスパイトケア(家族の休息)であり、入院患者は症状緩和がなされると、自発的あるいは医療者の説得で早々に退院していたため、平均入院日数は1・2週間程度であった。北米の実態を調べたり、留学していた知人からの伝聞を分析すると緩和ケア病棟は緩和エマージェンシーへの対応が主な目的であり、入院期間はさらに短かく日本のような末期患者が長期に入院する緩和ケア病棟はやはり存在しなかった。
 ある日本の緩和ケア医師は、外国では痛みが改善するとすぐ病院を追い出される。日本のように長期間安心して入院できる緩和ケア病棟は世界のどこにもない。日本の緩和ケア病棟は末期がん患者にとってパラダイスだというような主張をしていたが、症状の軽い末期患者が長期に緩和ケア病棟を占有する背後には何十人もの今すぐにでも癌の痛みや苦しみにあえいでいる緩和ケアの手が差し伸べられない患者の存在に気づいていないのかもしれない。もしかしたら、日本型の緩和ケア病棟は先進国では日本にしかないのだろうか?そうだとしたら、それは世界基準からして「緩和ケア病棟」と呼んで良いのだろうか?という素朴な疑問であった。
 そういうわけで西ヨーロッパへのホスピス緩和ケア視察旅行に一も二もなく申し込んだ。そうすると、ドイツでもやはり緩和ケア病棟への入院は上限2週間とし、次の患者を受け入れるために退院するのが常であることがわかった。退院後の主な受け皿は1在宅、2ホスピス、3介護施設であると説明された。そこで、うん?と思った。日本ではホスピス、ホスピス緩和ケア病棟、緩和ケア病棟は同義語で用いられているが、ドイツではホスピスと緩和ケア病棟は明確に区別されていたのだ。早速にどう異なるのか尋ねたところ明快な返事が戻ってきた。
 つまり、こういうことだ。緩和ケア病棟とは医師・看護師などの医療専門職が重厚に配置され、短期集中的に症状緩和を行うところで、入院期間は上限二週間を目処とする。ホスピスは看護師が常駐して介護職とともに緩和ケアのマネジメントを行う。医師は常駐せずかかりつけ医が往診で緩和医療を行う。そのかわり原則として入院期間の制限はない。つまり、医療対応型=緩和ケア病棟→医師のリーダーシップと短期入院、生活介護対応=ホスピス→看護職のリーダーシップと長期入所、という構図であった。これは極めて明快な区別でさすが分類好きなドイツ人と畏敬の念を抱いた。ただしイギリスが旧弊に固執しているというわけではなく、恐らく近代ホスピスの発祥地であり、後進国の北米や西ヨーロッパに倣ってシシリーソンダースが開設した病院をセントクリストファー緩和ケア病院などと改名するのには現時点では抵抗があるのだろう。
 ちなみにいわゆる「小児ホスピス」のドイツにおける主な対象疾患は悪性腫瘍ではなく、神経難病や先天性疾患のレスパイトケアと看取りであったが、やはり医師については大人のホスピスと同じ退翳であった。恐らく人工呼吸器や人工栄養を受けている小児が少ないので、緊急医療対応の頻度が低いのであろう。

ミュンヘン大学緩和医療学講座教授の講演写真

2012年10月