2026年07月23日 林山クリニック
「先生がいうなら飲みます」
——あるおばあちゃんの“かわいらしい本音”
訪問診療をしていると、
時々、思わずこちらが笑ってしまうような場面があります。
あるおばあちゃん。
ご家族から、
「先生、この人ぜんぜん薬飲まないんです」
「嫌や嫌やって言って、すぐ隠すんですよ」
と相談を受けていました。
実際、ご家族が薬を飲ませようとすると、
「こんな薬いらん!」
「苦いし飲みたくない!」
と、なかなかの抵抗ぶりです。
ところが、私が横に座って、
「じゃあ一緒に飲みましょうか」
と声をかけると、
「先生が言うなら飲みます。」
と、とても素直に薬を手に取り、
嬉しそうに飲まれるのです。
さっきまでの“薬はいらん!”はどこへ行ったのか、と
ご家族と顔を見合わせて思わず笑ってしまいました。
もちろん、ご家族からすると大変です。
毎日の服薬を支えることは、決して簡単なことではありません。
何度声をかけても飲んでくれない。
怒られたり、拒否されたりする。
介護をしているご家族ほど、つらく感じる場面でもあります。
それでも、こういう場面に出会うと、
高齢者医療には、単なる「服薬管理」ではない、人と人との関係性があるのだと感じます。
認知症があっても、年齢を重ねても、
その方らしい感情や、甘えたい気持ち、好き嫌い、相性のようなものはちゃんと残っています。
ときには、家族には素直になれないけれど、
少し外の存在である医療者には、“いい顔”を見せたくなることもあるのかもしれません。
それは困らせようとしているわけではなく、
その人なりの人間らしさなのだと思います。
訪問診療では、病気だけではなく、
こうした日常の小さな表情にたくさん出会います。
そして私は、そんな瞬間に触れるたび、
医療には「治す」だけではない温かさがあるのだと改めて感じています。
林山クリニック 愛新 啓志