病棟スピリチュアルケアワーカー 宇根 節(たかし)|スタッフブログ|林山朝日診療所グループ|神戸市須磨区・長田区・西区

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2009年02月27日

病棟スピリチュアルケアワーカー 宇根 節(たかし)

現在私は、スピリチュアルケアワーカーとして、当法人のホスピスで働いています。身体的な痛みではなく内面の痛みに向き合いながら、ここホスピスで暮らす方々が、自分らしく生きるための手伝いをしています。

1.スピリチュアルケアとは

内面の痛みには、心理的・情緒的な痛みや叫びもありますが、そうではない叫びや痛みも多くあります。「なぜ、病気になってしまったのか?」「自分の人生って、いったい何のか?」「自分っていったい何なの?」「死んだらどうなるの?」「どうして、この病気になってしまったの?」「何か悪い事の結果?」「神も仏もない」など。このような叫びは、情緒的心理的な部分ではなく、心の奥深い魂の領域から出てくる叫びです。

その叫びや痛みに向き合い、その現実を生きられるように模索しながらも歩もうとするのが、スピリチュアルケアであり私の仕事(役割)です。そういう意味では、ケアの提供者自身の質が問われてきます。スピリチュアルケアワーカーの認定を07年に受けたばかりの新米ですが、ここで暮らす方々の生き方に、学び育てもらいたいと実感しています。

2.スピリチュアルケアの大切さを伝えるために

この欄を借りて、ホスピスで暮らしている方々との出会いを、可能な範囲で“会話の記録”等を紹介していきたいと思います。交わした会話を紹介しながら、出会いから教えていただいた事、学べたこと、気付いた事などをお伝えできたらと思います。それを通して、スピリチュアルケアの大切さを実感して頂けることを願っています。

3.死を受け止める力を教えてくれたKさんとの出会い

今回は、Kさんとの出会いを紹介したいと思います。

Kさんとの出会い
Kさん:「隣の人は大変だったな。おしっこが出なくなったら人間、だめやな。この間に家族が来た頃から調子が悪くなったんだろうな。気の毒やな・・・。」

私:「そうですね」

Kさん:「人間、やっぱり気持ちのもちようだと思うね。自分もここに来た時は、気持ちが変だったから、何を話していたか覚えていないくらい。ここの外来で来ていた時から、ここに入院していたらもう終わりだと思っていたから。医者には、肺癌を宣告されて、『後はのんびりしないさいよ』って言われたけど・・・、それはもうアカンという覚悟を決めたけどね。・・・入院した時には、もう終わりだなーって。・・・あの時は、医者にここを紹介されてきたけど、ここが正直言って、『うば捨て山』だと感じていたなぁ・・・。でも、人間、弱いものやなあー。」

私:「弱いとは?」

Kさん:「やっぱり、がけっぷちになってみると不思議でね、もっと生きたいと思うものでね。80歳にもなるまで生きてきて、もうええやろうと思っていたのに。・・・それが、やっぱりもって生きたいという気持ちにもなっていく。」

私:「もっと、生きたい。」

Kさん:「そう。・・・でも、ここに来て、がけっぷちになってしまった時は弱かったわ。何をどう考えていたのかも覚えていないくらいだったよ。でもね、ここは自分にとっていい精神修養になったと思うよ。」

私:「精神修養と言うと?」

Kさん:「ここでもう2ヵ月半にもなって、死についても考えるようになってね。今は死も、しゃーないって思えるようになってきた。」

私:「しゃーない?」

Kさん:「そうね、もうしゃーないでしょうけど、死を受け止めようと思えるようになってきた。」

私:「受け止められるようになってきた」

Kさん:「そう。そんな風に考えるように、今は、なれている。」

私:「そう考えられるようになったのは?」

Kさん:「それはね、強く生きようとする気持ちだと思うね。その考えが、そう思えるように変わってきたたのかもしれないな・・・」

私:「入院していた時の自分から、変わった来たと思う」

Kさん:「そう。・・・子供たちもワシがここに入った時には覚悟していたと思うな。息子だけでなくみんなそう思ったんじゃないかな。・・みんなワシに隠れていろいろしてくれているわ。ありがたい。・・・感謝やわ。子供たちもワシのことは怖い親父やと思っているみたいやけど。先生にワシの事聞かれた時には、今でも怖いと言っていたからな。・・・そう思うと後悔もあるわな。」

私:「後悔」

Kさん:「そう、もっと優しくしてきたらよかったのかなぁーってね。子供たちには厳しくしてきたから・・。でも、怒るときはしっかりと怒らなあかんし。自分に頼ってばかりしていたらあかんから。自分のできることはせなアカンし、そう子供には教えてきたつもりだったけど

私:「伝わったと思う」

Kさん:「そうな、伝わったと思うよ。ワシの信念やから、それは貫きたいしな。」

私:(うなずく)

Kさんにとって、ガンを宣告されたショック、ホスピスに入院した時に感じて味わったショックは、大きなものだったようである。それでも、Kさんはもう終わりだと思っていた気持ちから、もっと生きたいと思うように自ら変えていかれた。もっと「生きたい」という思いが、考えることをあきらめさせていた自分から、死を受け止めて死に向き合って行こうとする自分に変える原動力になったのかもしれない。

Kさんが、その姿で教えてくれた「もっと生きたいと思う力」。私たちの中に、誰にでも有り、湧き上がるように出てくるこの想いは、とても尊い力でもあるんだと実感させられたように思えました。スピリチュアルケアワーカーになって働き始めた頃に出会ったKさんに教えられた大事な生きる力、死を受け止める力を忘れないようにしたいものです。(終)

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